このページでは、私が大学3、4年のときに考案したオーディオ用 浮動バイアス方式アンプを紹介します。 このオーディオアンプは実際に製作し、ゲームをするときに使っていました。 非常に低コストで簡単に製作でき、市販のアンプキットよりも質が高くて 実用的だったのでこのページで紹介することにします。
このアンプは次のような特徴を持ちます。
私がよく使うオペアンプは単電源で動作するタイプのものです。 単電源オペアンプはチップの内部で電源電圧 Vcc を抵抗で分圧したりして 約半分の電圧 Vcc/2 を作り出しています。 そして、オペアンプの+,-の入力端子間の電圧が 0 のときは出力にはこの Vcc/2 の電圧が出ています。入力端子間に音楽情報などの電圧をかけると この Vcc/2 の電圧を中心として出力端子には 0 から Vcc の間の電圧が現れます。
ここで、もしオペアンプの出力端子と GND 間に直接スピーカーをつないだら 電圧に直流成分があるので、スピーカーが片方に引っ張られてしまい、音が出ません。 しかも、抵抗が 8 Ωしかないスピーカーに常に直流電流が流れるので、 スピーカーのコイルが焼ききれる恐れもあります。 そこで、普通は図1のようにアンプとスピーカー(図1では抵抗Rで示す)の間に コンデンサを挿入して直流が流れないようにします。 このコンデンサは交流だけ通す結合用に使われるのでカップリングコンデンサ (交流結合コンデンサ)と呼ばれます。
図1: カップリングコンデンサ
図2: RC high-pass filter
入力電圧と出力電圧をそれぞれ V1, V2 とすると、それらの関係は次のようになります。
図3: C=470μF, R=8 Ωのときの 図2 の RC-HPF の周波数特性
この例のように、カップリングコンデンサに 470μF というかなり大容量のものを 使ったにも関わらず、そのカットオフ周波数は 42Hz となってしまいます。 これでは低音が再現されず、いいアンプとは言えません。 カップリングコンデンサの容量を無限にする(つまりショートする)と問題ないけど、 先程述べたような問題が生じてしまいます。
普通、直流電圧を商用の 100V, 60 Hz の交流から作るときにはダイオード、コンデンサ、 抵抗を使って 10V の直流に直します(整流)が、完全に直流にすることはできず、 リップルといわれる交流成分が残ってしまいます。 そのため、普通は整流したあと、安定化電源などを使います。 安定化電源の種類としては、シリーズレギュレータ、スイッチングレギュレータ などがありますが、前者は性能はいいけどエネルギーを無駄遣いし、 後者は平均的にはいい直流ですが、スイッチングするときにインパルス 波形が出来て雑音を撒き散らしてしまうという欠点があります。
まず、カップリングコンデンサを使うことによって低域で利得が低下してしまう問題 を解決することにします。そもそも、カップリングコンデンサを使わなければいけない 理由は直流成分をカットするためでした。2電源を使えばこの問題は解決するけど、 ここでは大量にあるファミコンなどの AC アダプターを利用して低コスト で作りたいという目的があるので単電源を使うことにします。
すると、無入力時の出力電圧は Vcc/2 なので、もう一つ Vcc/2 の電圧を作って、 そことの間にスピーカーをつなげばいいことになります。
その Vcc/2 の電圧を作る一つの方法としては、同じ値の抵抗を2つ使って Vcc を分圧する 方法があります。でも、これではテブナンの定理により、スピーカーに抵抗を直列に 挿入する形になってしまい、アンプの出力インピーダンスが高くなってしまって 増幅器としての動作をしなくなってしまいます(電力を取り出せない)。
そこで、他の方法としては図4 に示すようにオペアンプの 入力端子間をショートさせておいて、その出力を Vcc/2 にする方法があります。 この方法だとオペアンプの出力インピーダンスは非常に低いので合格です。 もし、オペアンプの特性が完全に同じならば直流成分は全くありません。 (実際には数十ミリボルトあるけど、実用上問題ありません) これで、カップリングコンデンサを使うことによって低域で利得が低下してしまう問題 は解決しました。図4 に示す回路構成を「浮動バイアス方式」と名付けます。 理由は後で述べます。
図4: 浮動バイアス方式
次に電源ノイズの問題を考えます。 浮動バイアス方式を使うと 2 つのオペアンプの出力に同相・同振幅で電源ノイズ が乗るので、差を取るとキャンセルされます。 スピーカーの両端にかかる電圧は2つのオペアンプの出力電圧の差なので、 電源ノイズはキャンセルされます。 実際に製作したアンプを使って音を聞いてみるとスタンダードなアンプとの差は 明らかでした。無音の状態のときでも電源ノイズは聞こえなく、雑音特性は非常に 高性能でした。 こうして電源ノイズの問題は浮動バイアス方式を使うと自然に解決できました (周波数特性と雑音特性を同時に解決できて一石二鳥です)。
ここで、「浮動バイアス」という名前の意味はバイアス点が電源ノイズによってフワフワ 動いているという意味です。
この回路の唯一の欠点はカップリングコンデンサを取り除いたので音は良くなりましたが、 信頼性は低下しました。つまり、もし2つのオペアンプの特性が同じでなく、オフセット電圧 が大きいときには直流電圧が出力に現れてスピーカーを危険にさらす恐れがあること は否定できません。でも、実用上は問題なく動いています。
図5: 実際の回路
図6: NJM5532 のピン配置