ニーチェの哲学
本「人間の土地」(サン=テグジュペリ著)
「星の王子さま」の著者として有名なサン=テグジュペリはパイロットでもあり、その頃の体験を記した自伝・体験談になっています。郵便飛行がビジネスとして始まったころ、ヨーロッパと南アメリカを結ぶルートを郵便物を載せて飛んでいたそうです。その頃のアフリカの状況やアンデス山脈を越えて飛ぶ危険な飛行について、自身と仲間の体験が記されています。ここから、著者が「神」というものをどうとらえているかなどが見えてきます。リビア砂漠に不時着して、何日も砂漠を歩いて運良く通りかかってくれ、水を与えて救ってくれた人を(宗教などと関係なく)「勇者」と考える感謝の気持ちなど印象的です。また、砂漠に不時着してのどの渇きを覚えたときに持っていたことに気づいた1つのオレンジに対する喜びも印象的です。開拓者や異文化との接し方などの考え方が見えて力強く生きるために大変参考になります。開拓者がいかに苦労するかも、冬のアンデス山脈に不時着して、運良く帰還した友人の話などからも見ることができます。郵便飛行機の実用化時代に大西洋を飛んだマクロな視点から、ミクロに観察する視点など、大冒険を経験して得られた考え方が書かれていて、サン=テグジュペリの思想や考え方を知るための書物としてだけでなく、歴史書としても面白いです。この経験が「星の王子さま」、「夜間飛行」、「南方郵便機」などの作品につながっているのがよくわかります。
別の紹介記事
本「史上最大の作戦」(コーネリアス・ライアン著)
第二次世界大戦のノルマンディー上陸作戦の情報を収集したドキュメントで、いかにナチスを倒すのが困難であったか、軍事的にも戦略的にも徹底的に考え抜いて勝利に向けて進めていく様子が描かれています。限られた軍事力・資源をうまく配分し、情報を管理し、大きな目標・勝利へと進める戦略の中で、一人一人の兵士・民間人の様子が描かれています。これからの人生を生きる上で、困難に突き当たったときにいかに全体を俯瞰して進めていくべきかヒントをもらえる内容です。映画版もいいけど、この本のダイジェストという感じの内容です。
ドラマ「バンド・オブ・ブラザース」
ドラマとは言っても、第2次世界大戦のヨーロッパ戦線、ノルマンディー上陸作戦のパラシュート部隊で活躍した第101空挺師団E中隊を描いたドキュメンタリーになります。各話の最初に実際に戦った兵士のインタビューがあります。軍隊では上官の命令は絶対的だけど、全体の目的達成が危ういときの対応についても描かれています。現代の組織構造にも当てはまる内容で、組織の上層部が無能な場合、どのように対応すべきか考える上でとても参考になります。目的が大切であり、組織構造がこうだから動けないと諦めてはいけないということを学べます(太平洋戦線のガダルカナル戦におけるアメリカ陸軍と海軍の連携も一例です)。1部隊にフォーカスを当てて大戦の開始から終戦まで描いているけど、全体の流れを知っているとパットン将軍の戦車部隊がマルセイユから追撃してきたな、レッドボール作戦の部隊が頑張っているな、などと話がつながります。特に、極寒のアルデンヌの森でドイツ軍に包囲され、物資不足の中で戦ったバルジの戦い(バストーニュの戦い)を見ていると、現代の普通の生活の中の寒さや日常の悩みなど大したことないと思え、普通の生活ができるだけで幸せに感じるようになります。
ミュージカル映画「サウンド・オブ・ミュージック」
第二次世界大戦中、ナチスドイツに併合されるオーストリアでの話です。音楽・映像(肉眼で見るようなアルプスの山々の映像の迫力はすごいです)が素晴らしいのはもちろんですが、トラップ大佐は大衆と一緒には群れず、真実を見る眼を見失わなかった尊敬する人物です。当時のオーストリアでは皆、ナチスドイツによる併合を歓迎し、「これも時代の流れだ」と言ったり、身を守るために賛成するふりをしている国民がほとんどなのにも関わらず、自分の意見をしっかり持ち、無矛盾な行動ができるトラップ大佐を尊敬します。これを見て生きる意味について考えさせられました。世界の平和・安定した社会実現のために個の確立・無矛盾な行動原理と主義主張がいかに大切かがわかりました。大衆というのは群れたがり、日和見主義に徹することで自分を目立たないようにして身を守りたがるのがよくわかります。今までの自分は自分の意思で動いておらず、機械・ロボットのように周りの影響で動くだけだったと気づいて目から鱗が落ちて感動した作品でした。
本「武士道」(新渡戸稲造著)
私は自分の行動原理にはしっかりした理由が欲しいので、宗教に頼らずに論理だけで無矛盾な行動ができないものかと考察を進めています(他人が宗教を信仰することは全くの自由ですが)。「他人を殺してはいけないことの理由」はルソーの社会契約論から説明できるし、道徳を守らなければならない(他人が嫌がることしない)理由もこの理論の応用で説明できると思います。しかし、ただ1つだけ「自殺をしてはいけなことの理由」が見つかりませんでした(道徳を守ると考えるのも生きているからで、死んだらそれを考える必要がないからです)。これは哲学者のニーチェもいろいろ悩み、ルサンチマン→ニヒリズム→永劫回帰→超人などの思想で解決しようと考察していますが、後から取って付けたような説明で(はるか未来、また同じ状態が戻ってくるのだから[永劫回帰=輪廻、ニュートンの運動の法則+エネルギー保存則]、生に対して肯定的でないと永久に惨めな人生となる・・と)、死後の世界が無いならば「死んだほうが楽かもしれない」ということは否定できません。しかし、私もニーチェのように生を強く肯定したいのです。この問題は私は今でも重要課題だと思っており、考察中です。
それから私が目指したい「平和で安定した世界を実現する」(その逆は「自然状態=万人の万人による闘争」、世界大戦状態)ということは、なぜ私が目指しているのでしょうか。これは私にとっては理由が無く、大きな疑問です(小さな意味では自分が生きたいというのが1つの理由ですが。では今度は私が生きたいと思う理由は・・?)。新渡戸稲造先生がこの本を書いたのは今からちょうど100年程前の1900年(日本が鎖国を解いて開国し、少し経った文明開化の時代)でした。当時、新渡戸稲造先生自身もあまり宗教に対する信仰心が無かったようで、まわりの日本人もこれといった信仰心が無かったようです(今から見ると、そうは思えないですが)。そして外国人に「宗教無くして、いったいどのように道徳教育をすることができるのか」と言われて驚いたそうです。卑怯な行為を憎むというような感情はどのように芽生えたのか、それは小さい頃から無意識に教育されていた武士道の精神だったということです。私も卑怯な行為を憎みますが、実はそのように無意識に植えつけられた教育だったのかと納得しました。私が「世界平和と安定した社会」を目指すことや、「生を肯定すること」の理由はなぜかと聞かれた場合、それ以上説明することができないのですが、この本を読んで武士道精神の教育(この場合、「武士道」という名前はどうでもいい)があったからなのかと思いました。でもやはり論理で解決したいので「自殺してはいけないことの理由」を進めています(今のところ、とりあえずは皆が「生きているのは楽しい」と思える社会を作るしかないかと思います)。
この本を読んで、北大のポプラ並木入り口の新渡戸稲造先生の銅像を見に行きました。
アニメ「銀河鉄道999」(松本零士作)
子供の頃にみたアニメだけど、思い出してみると人生の価値観に影響を受けています。地球からアンドロメダに行くまで多くの星を巡り、いろいろな価値観を見て旅して、自分も長い旅をした気分になります。大体は悲しい話で哲学的です。機械人間になって永遠の命を手に入れるために旅をするけど、最後にそれでいいのかと悩むことになります。手塚治虫の「火の鳥」と同様、この作品も哲学的なことを考える内容が多く含まれています。オーケストラの音楽も宇宙にいる雰囲気で、シーンとよくマッチしていてとてもいいです。
国木田独歩の作品
特に「武蔵野」はいつも散歩している東京近辺の風景を非常に上手く描写していていいと思います。今では当時の風景とは大きく変わってしまったけど、東京の一部に残った空間からこの作品の風景を想像することができます。この本を呼んで武蔵境にある独歩の森に行きました。秋も冬もブナなどの葉の良い香りがしていました。また、この林も裏に続いている玉川上水の上流側を歩くと江戸時代のような美しい武蔵野の林の風景が残っています。また、他の作品でも明治期の街の広がりの範囲と当時の人々の思想などを垣間見ることができて興味深いです。
「遠野物語」(柳田国男)
岩手県遠野の民間伝承を集めた内容だけど、断片的な言い伝えを集めるだけで話につながりが出てくるのが非常に興味深いです。ざしきわらし、河童、天狗、山姥、山男、山神、狐などなどが登場します。無機的な大都会に住んでいると非常に魅力を感じる風景が描写されています。私もこれを読んで遠野に行きました。遠野の街を一望できるダンノハナ、石塔、コンセイサマ、オシラサマ、山口の水車などなど心洗われる美しい日本の風景が残っています。ちなみに、花巻からここに向かうJR釜石線は宮沢賢治の小説「銀河鉄道の夜」の舞台になっていて、その風景も楽しめます。
古典文学
例えフィクションであっても、当時の情景を垣間見ることができるのが古典文学を読んでいて楽しいところです。こうやって列挙すると歴史と社会の変遷を紐解く手掛かりとなります。
「伊勢物語」・・・在原業平の和歌を多く引用して描いた物語です。主人公は在原業平を想定した色男としていて、話の内容は現実離れしていて面白くはありません。在原業平の和歌を紹介するための物語と考えられます。しかし在原業平はやはり和歌が上手く、「世の中に
絶えて桜の なかりせば 春の心は のどけからまし」(世の中に桜がなかったら、春に浮き浮きして桜のことばかり考える必要がないから落ちつて過ごすことができるのに)や「あかなくに
まだきも月の 隠るるか 山の端逃げて 入れずもあらなむ」(まだ月を見ていたいのにもう月が山に沈んでしまいそうだ。山が逃げてくれて月をい入れさせなければいいいのに)など、歌のテンポも良く情景や心情を非常に上手く伝えていると思います。
「土佐日記」・・・紀貫之の日記で、土佐から京都への舟での航程を記録した内容です。嵐や瀬戸内海の海賊がいかに脅威であり、これだけの旅でも命がけであったかがわかる内容です。夜に舟から美しい月を見て在原業平の和歌「あかなくに
まだきも月の 隠るるか 山の端逃げて 入れずもあらなむ」が引用されています。
「源氏物語」・・・紫式部のフィクションで、話の内容は面白くないけど、貴族の浪費生活の様子が描かれていて当時の暮らしを垣間見ることができます。
「枕草子」・・・ 清少納言の日記で、冒頭の「春はあけぼの・・・」の四季の文は非常に美しいけれど、他のものは作者が主観的に感じた日常の記録になっています(作者もそれが世に出版することにはるとは思わなかったからしいけど)。冒頭の文以外のほとんどにおいて、私は作者とは違う感性を持っているけど、当時の記録としては価値ある資料だと思います。贅沢三昧した暮らしで庶民は苦しい生活、これが後日の平家物語の話へとつながるのではないかと思います。
「竹取物語」・・・ 作者不詳のフィクションで、子供向けにアレンジされた単純でロマンチックな物語ではありません。間接的に当時の現実世界の貴族の腐敗を批判しているのがわかり、世相を伝えるよい記録と思います。
「平家物語」・・・軍記物語で、フィクションというよりはなるべく歴史を伝えようとして後世に書かれた作品です。貴族の腐敗・没落とともに、貴族の防衛に雇われていた武士が反乱を起こして立場逆転するという必然的な歴史の流れが描かれていて興味深いです。冒頭の「祇園精舎の鐘の声・・・」は諸行無常感を非常によく伝えています。これを読んで壇ノ浦に行きました。
「方丈記」・・・鴨長明の日記で、元々暮らしはあまり悪くはなかったけど戦乱の時代に入り、飢饉、大地震、火山の噴火などの天災も重なり、末世思想が蔓延していた時代であることがよくわかる作品です。冒頭の「ゆく河の流れは絶えずして、しかももとの水にあらず・・・」などは平家物語の冒頭と同じ諸行無常の響きを感じるものであり、実際に同時代に書かれたものです。
「徒然草」・・・吉田兼好の随筆で、日記や聞いた話などを記録したものです。京都の話が多いけど、関東の宿河原の話も出てきます。これを読んで京都嵐山の天龍寺の亀山殿、神奈川県の宿河原に行きました。
「おくのほそ道」・・・松尾芭蕉と弟子の河合曾良が江戸の深川を出発して松島→平泉→日本海→大垣(岐阜)と旅して俳句を詠みながら書いた紀行です。江戸時代だけど、平泉から日本海へと山道を抜けるのがいかに大変であるかがわかります。これを読んで平泉、松島、鳴子温泉、立石寺(山寺)、新庄(芭蕉乗船の地、芭蕉ライン舟下り、最上川)、酒田(芭蕉坂)に行きました。
|